アンヂィズキット

いろんな意味で演ずるひと。 芝居・音楽・絵・言葉をサイクロン方式に小出しにして遊びます 。

『ふがいない僕は空を見た』

監督:タナダユキ
脚本:向井康介
出演:永山絢斗 田畑 智子 窪田正孝 小篠恵奈 田中美晴 三浦貴大 銀粉蝶 原田美枝子
テアトル梅田にて鑑賞。


涙が出たのは
つらい思い出をおもうときでもなく
行き場の無い現状に同情するのでもなく
会いたいひとが居ないことでもなく、
あたらしいいのちが生まれた瞬間だった。


不妊や出産を描きながらも
取り立てて女がえらいとか大変だとか云うんでもなく
とてもすべてが冷静で、公平で、
すっくと気持ちを立てていることで
凛々とした嘘の無いやさしさがあった。
原田美枝子さんの演技が素晴らしくよかった。
余計なことばがなく
其のどれもが
ぐんにゃりとしてるのに深く刺さったり
細い細い糸の針のように気付かぬうちに心の真ん中を射っていた。


ふたりの視点を替えて観たときの其れは
感じ方がほんとうに違って見えて
事情を知っているから感じる感情があることや
知らなかった時に見えたものでしか判断できないのに抱く感情や、
夫々の気持ちになってなぞっていた筈なのに
とても客観してる自分を思い出してはっとした。
映画の中に、ちゃんと観るひとの椅子が用意されているかのような空間感。


だからそこから良太への視点の移り変わりがとてもしっくりといったし。
タナダ作品の気持ちの流れはいつも
時間に無理がない。
気持ちがそうなるべく
ちゃんと其れだけの時間が描かれている。
飾りすぎない言葉と
リアルな毒と
見えづらいでいる強さとか
過剰に感情で訴えるのでもなく
何かを誘う為の演出でもなく
嵌った型でもなく
ひつような分だけのそれが
ひつような量だけおさまっていて
とてもふしぎなふわっとしたやわらかさのある清々しさに包まれて見終えた。


弱さが馴れ合う不毛な恋愛を描きたいのではなく
不幸せとか然う云った状況を上から見たように扱うでもなく
ただただおなじ高さからまっすぐにずどんと広がっていて、
なんのタイミングだとしても此の世に生を落とし生まれたら
すべてのひとに
すべてのひとの人の生の道が開けていることや
生まれて人生を全うするまでのきょりを
じぶんで動いてゆくことの意味を
あんなに説教臭くなく説かれていたことに
あとからじんわりと気づいた。


うん。とても。いい映画でした。
いろんなひとに観てほしい。女子にも男子にも。