アンヂィズキット

いろんな意味で演ずるひと。 芝居・音楽・絵・言葉をサイクロン方式に小出しにして遊びます 。

西瓜のほんとうの目は何処。

建物から出た途端に
無闇に吹く風と
決して体に滲み込んで潤ったりしないけど
確実にからだじゅうにくまなく纏い着く湿度に絡まれた。
どう云うつもりなんだか今日のてんき。


最近、暑さの所為か復路は音楽で耳を塞がなくなった。
車はぶるぅぅぅんと唸り、
蝉は慌てて息を吸うようにあらためて大きな声を上げ出した。
どこから来たのか空腹な子猫がすごい形相でコンビニ程度のごみ袋に首をつっこみ
其のゴミ捨て場を利用している住人であろう女が
ラフな格好のまま其の様を直視していた。
構うでもなく、「あらあら」と微笑むでもなく、どう叩き追い出そうかと云うでもなく、
よくわからない表情のまま、
ただぼうっと其れを眺めていた。
猫と女とどちらも気になったが
振り返りつつ
先をゆく。


うだるようにあつい。
とはまさに今日みたいな日のことだと思った。


郵便局のひとつだけ設置されたちいさなATMの扉の前で
有り得なく仁王立ちでガラス戸の外から中をガン見している血気盛んな若い男がおり
通り際に中をのぞくと背筋を丸めた心許なく全体的に茶色いトォンの上下を着た男がいたので
恐らく時間がかかり過ぎているか何件もの用事を済まして待たせているのだろうと推測されるけれども、
其れにもしてもだ
な風情で仁王立ちなもんだから
また気になって
なんども歩きつつ振り返って見ていたけれど
まったくそんな視線に気付くことなくガラスなど融かしてしまわんばかりの熱視線を注ぎっぱ。
暫くして茶色男が何食わぬ様子でよろろと出てきた際、
仁王男は肩でぶつかったように見えた(もう結構離れていたので確かでないけれど)。
茶色男は振り返って仁王男を見やり
かと云って恐れ過ぎることもなく
暫く外に立ち尽くしていたので
少し怖くなったが
諦めたかのように立ち去って行った。
何が怖いて、血気盛んな者よりも、
何を思っているかわからない方が、
実際のところ怖いからだ。

例えば、
ありえないものが見えるひとよりも
まったくそんなものは見えないひとの方が
怖いのだと思う。
だって
実際のところどうなのかわからないのだから。
わからないものは
こわい。
わからないのだ、
と云う思い込みが
怖くないものでもこわくする。


あまりの暑さに熱帯気分になり
スゥパァで値引かれ切り詰められた果物を買う。
ちいさな透明なパック。
オレンヂとパイナ。
其れを入れたビニル袋を下げ
シャワシャワと鳴る音を聴く。
白くてカァブのある石の遊具の上に器用に寝る黒猫たちは
何処に居ればじぶんが映えるかを知っているかのようで
ただただいちばん涼しい場所に居るだけのようにも見えた。
植え込みに潜み過ぎて土に栄養を摂られてきれいな花が咲いてしまいそうな黒茶色な子猫に声をかけたら「なに?」と生きていた。


耳を塞がないで居ると
いろいろが鳴いていて
いろいろが聴こえ
どんな強さで踏めば
地面が鳴るのかと云うことも忘れていたことに
ふと気付く。


再び蝉の声
田舎のような音量のカラスたち。
すずめには声をかけるが
カラスには関わらないことにしている。
ふと
カラスと大きな声のひとは似ているなと思った。
きっと彼等は
じぶんがどれくらいの音量をしているかを知らない。


部屋に着き
果物を食み
纏いついた湿気をはらい落ちついたところで
美味い焼きたらこが食べたい
と思ったが
部屋には、無い。